2009年05月24日

銀座の怪人

七尾和晃著 「銀座の怪人」 読了。

一気読みしました。この興奮、誰に伝えていいのかわからん。
読み終わったあと夢に出たぐらいですよ。
作りが簡単な脳だなぁ。

2004年、FBIが逮捕したユダヤ系イラン人の男によって、日本全体の美術資産に対する
信頼の基盤が根底から揺るがされかねない、戦慄の状況が詳らかになりました。

男は過去20年以上にわたり、日本全土に絵画、骨董の贋作を売り捌いていたのです。
バブル期において画商、美術史教授、実業家、政治家、男の持つ美術品を買った人間は数知れず、
今もその被害額は杳として知れません。
なにより彼等は単純に被害者と言えるのか・・・。

「ニセモノを掴まされて恥ずかしい」
日本人の「恥」の感性をも利用したところに男の怪人振りが伺えます。

政商の側面もある銀座の画商達の老獪さ、バブル期の狂乱、三越事件etc
本を読む楽しみは「知らないことを知ること」と「知っていることが繋がること」ですね。

三越事件で名前の上がった男が、先日読んだ「三島由紀夫・剣と寒紅」に出てきた人かと
一瞬思って慌てました。でも年齢が全然違うので
「あさちゃんはうっかりちゃんねぇ」なんて言いながら読みました。

題材もすごいですが、著者が何よりすごい。
その筆力、取材力、人脈、74年生まれというのが俄かには信じ難い程です。

著者が当事者達に取材する度に感じた既知感。
それはエピローグで明かされます。
これも上手い。唸りました。

勢い彼の著作5冊全部読み事に決定。
1冊だけ入手が難しそうですが、何とかなるでしょう。
この本と、「堤義明 闇の帝国」はすでに読了(これも取材力と執念に圧倒されました)
次は「炭鉱太郎が来た道」です。
特に「炭鉱~」は良書であると私の中の野性の勘が叫んでいます。
楽ちみ。


だが敢えて言いましょう。惚れたから言う。
七尾さん、貴方は確かに若い。
おそらく貴方の知己である方々は8割以上かなり年長者でしょう。
若い、若いと言われてらっしゃる事でしょう。
戦後活躍したフィクサー、財界人、大物と対峙する貴方は眩しい。
そして年長者には貴方の若さと、それに不釣合いなほどの能力が眩しいはずです。
それはご自身でわかってらっしゃるのでしょう、
そしてご自身の若さを強みにしてらっしゃる。

ですが、ですがです。
取材されるときはともかく、
著作の中でもそれを露にされるのはお控えになられた方がよろしいのではないでしょうか。
綿密な取材を地とするなら、細い流水紋のように織り込まれる
若さを強調しているかのような不釣合いな青い文。

貴方より年少である私でさえちょっと恥ずかしくなるほどです。
これからますますのご活躍は目に浮かびますが、
同時に貴方が年経て、過去の著作の所々の青さに身悶えするのも浮かびます。
聡明な貴方です、お気づきにならないはずはございません。

お忙しい御身、このような駄文をご覧になる時間はないでしょうが、
一瞬恋かと勘違いした程の熱情で以て、著作を拝読した者の戯言と御一笑くださいませ。

ごきげんよう。









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Posted by あさ at 22:26│Comments(10)
この記事へのコメント
怪人というタイトルに、小説かと、またいつもの早とちりをしてしまいました。困った脳です。
ドキュメンタリーなのですね。
なんとおススメ上手なあささまでしょう。
読みたいリストに入れますね。

>本を読む楽しみは「知らないことを知ること」と「知っていることが繋がること」ですね。

今回の赤線です。
Posted by かじ at 2009年05月26日 15:57
かじ様

確かに小説っぽい、ちょっとキャッチーなタイトルですよね。

この銀座の怪人、松本清張のところにも贋作を売りつけにきています。
このあたりの緊迫感もたまりません。

県立図書館にあります。
Posted by あさあさ at 2009年05月31日 21:40
 ありがとうございます。小生は多忙どころか、仕事のない無職の身でありますので、しかと、とくと、じっくりと拝読いたしました(笑)
 この数年来、自分について書いてくださったもののなかで、もっとも素敵なリズムに溢れる文章でいらっしゃったので、なんだかとてもうれしくなってしまいました。
 自分自身で気づいていないところに、おおいに気付かされました。そうか!俺は若さをそんなにも剥き出しに、いやらしいほど生々しく散りばめていたのかいな~、と。
 実は、自分では、「青二才」ぶりをとにかく含めているつもりでした。その理由はただ一つでした。出版社の編集者の方々に、自信満々で生意気であると思われて干されるのが怖かったからでした。
 でも、現実は僕の”期待”を裏切ってしまったのです。青二才ですよ~青二才ですよ~だからかわいがってくださいよ~と演出しようとしていたつもりだったのですが、生来の不器用さが祟ったのやもしれません…。そんなつまらない演出が見抜かれてしまったのか、結果は結局、干されるところとなってしまったのでした。
 今となっては、僕自身が銀座の怪人となってしまったのかもしれません。
 悲しいことです。
 残ったのは、取材費をねん出するために使ったVISAカードの請求書だけ。
『銀座の怪人』を書くために使ったカードのリボ払いに未だ追われ、首にタオルを巻いて、現場に出る日々でございます。
 そんな借金まみれになりながら、乾坤一擲の気負いで仕上げたつもりの『銀座の怪人』も、当の出版村の方々からは「基礎さえなってない」「情報がない」と罵倒され、以後、音沙汰なしとなりました。
 ところで、あさ様は大変に文章が御上手でいらっしゃいますが、本物のプロの書き手でいらっしゃるのでせうか?
 僕のように、いつまでも、出版村の方々に認めさせてやろうとなどと、陳腐で拙劣な執念だけでやっておりますと、今般のように、ついに無職となるのでありますが、世の中には、本当の才能をお持ちのかたがいっぱい眠っていらっしゃるのですから、ぜひ、いろいろ書かれてくださいませ。
 ちなみに、このほど、僕のパソコンで、こちらのブログをお気に入り登録いたしました。
 楽しみがまたひとつ増えました。ありがとうございます。
                                      七尾和晃拝
Posted by 七尾和晃 at 2009年06月03日 15:57
七尾様

ご訪問とお言葉、ありがとうございます。
浅学の者が偉そうに申し上げて、ただただ汗顔の至りです。

>小生は多忙どころか、仕事のない無職の身でありますので、しかと、とくと、じっくりと拝読いたしました(笑)

どうかそのようないぢわるを仰らないで~!!
間違いなく今年下半期一番の冷や汗を掻きました。




>残ったのは、取材費をねん出するために使ったVISAカードの請求書だけ。

こんなこともどうか仰らないで下さいませ。
九州の片田舎にいる新参ファンがこうしているんですもの。


出版ムラ…ささやかなアイロニー、確かに受け取りました。(もしかして七尾様結構やんちゃな方?こわいじゃないですか)
大手からであっても中堅からであっても、
七尾様の出される御本の価値や質がなんら変わるものではございません。

だって若さの強調をお控えなさった方が・・・と申し上げたのも、
これから40代、50代となられたときに、大宅壮一ノンフィクション賞をはじめとする
数々の大賞を受賞されるのを確信したからです。
そろそろ軌道修正しておかないと間に合わないと感じるくらいの確信でした。


七尾様が筆を折られることはないと信じております。(追い詰めてみました♪)
首にタオルで現場の日々の中でも、
七尾様のご活躍を祈念する者がいることをお忘れにならないで下さいましね。

今夜は「炭鉱太郎がきた道」を拝読いたします。
いい夜になりそうです。



追伸:上のコメントで、 
    
   >県立図書館にあります。
   
    こんなん書いてごめんなさい~!!
    今さらですが、重版かかることをお祈りしております。
    もうもう、私のバカ…。 
Posted by あさあさ at 2009年06月06日 23:58
あさ様
 ありがとうございます。
 自分の名前を検索してはどこかでお怒りの方がいらっしゃれば、必ずお詫びだけはしておかなければいけないので、毎朝、起き抜けに必ず自分の名前を検索しておりまして、今朝も立ち寄りました。
 御丁寧にありがとうございます。
 ただ、闇の帝国や銀座の怪人などがお好きでいらっしゃるかたには、『炭鉱太郎』は地味すぎて、結局、新しい話など何もないだろう、何がいいたいんだ、ということになってしまうかもしれません。
 あさ様は真の読書家でいらっしゃって、僕の書いたものを本当に真剣に読んでくださっていらっしゃるので、思わず、120%の本音をもらしてしまいます。
 『炭鉱太郎』こそは、僕がもっとも好きなもので、僕が本当に取り組んでみたかったものです。
 数々のどぎついタイトルから、いまやパソコンとウェブサイトにかじりついているだけの出版村では事件屋のように思われておりますが、僕はとにかく、外車と女性(あるいは男)と酒(注・酒は僕も好きです)に“だけ”夜ごと狂っている出版村の貴族たちが大嫌いです(ですので、当然、彼らも僕が嫌いです・苦笑)。
 そんな出版村の方々が、本が売れない売れない、活字不況だと騒いでおりますが、繰り返すも、外車と異性と酒にだけ溺れている村の掟と空気によって生み出される書き物が当然、僕ら読者にとって魅力を持ちうるはずもなかろうと、かように、これだけは譲らぬ信念として僕のうちにあるのでございます。
 そして、ノン-フィクションと称し、どこかに書いてある話を“地の文に織り込む”と称してオリジナリティを装ったものや、売れるネタがすべてであると、書き手に向き合う以前にネタと新発見だけに目を凝らした、少なくとも僕にとっては人間を見つめることから遠ざかった、陳腐な、作家と称する人々の書き物ばかりが書店に平積みになるようになったのでございます。
 おそらく僕は死ぬまで青臭いのであります。これも直らぬ性かもしれません。あさ様がおっしゃるように、直さなくてはとは思うのですが、小学生以来、成長しないこの精神性の発育不良をもはや自分でも持て余しております。
 でも、あさ様、期待に反して、日本の出版村での偽装住人であり続けることにもそろそろ限界がきました。
 出版村の最大の掟は、外車、異性、酒を含めた“つきあいのよさ”でございます。会社組織となんら変わりません。
 夜ごと、上司の酒に付き合う者が役員の座を射止めるように、大宅賞云々を射止めるのであります。もちろん、書き手の実力をともなった上でのプラスアルファの要素として(笑)
 そんな偽装住人として、そろそろ最後の力を振り絞ったのが、『炭鉱太郎』でありました。
 せっかく真剣に読んでいただいたのに、書き奴のつまらぬ心の内側と本心を、あろうことか、あろうことか、こんなにもすべて曝してしまいました(笑)
 それもこれも、今だ見ぬこちらのなんだか素敵で、同時に僕にとってはネット上では初めて拝見する不思議な温かさをもったブログのせいでありましょう(御容赦を)
 長々と余計なことを求められずに、書き連ねるのも、これまた僕の悪い癖でありますが、そんなわけで、『炭鉱太郎』は、なんとかやり遂げたいものでした。決してそれは、出版村への大いなるアイロニーとしてではなく、売れそうなネタあった~、こんな資料、文書見つけた~、と安直に小躍りする、山口昌男氏風にかっこつければ、出版村の“周縁”にひろがるライター村への決別としてでもありました。
 炭鉱太郎は、地味すぎて何の新しい発見もない話です。ただ、僕は、人間に乗って文化は育まれ、そして移っていくという、当たり前のことを、飯塚浩二を紐解くまでもなく、自分の目でそこに確かめてみたかったのです。そこに、人がいるということに触れてみたかったのです。ああ、やはり青い、青すぎるオチになってしまう…。ご勘弁を(笑)
 でも、あさ様、ここだけ(ネット上にここだけの話があるのかいなや・笑)ですが、銀座の怪人の312ページ、闇市の帝王の226ページ、そして炭鉱太郎はつながっているのです(ダヴィンチコード風に申し上げてみたつもりです)
 所詮、ひとりの人間が書いたもの、三つ子の魂どころか、関心の趣などそうそう変化いたしません。
 炭鉱太郎もまた、次につながるのです。そのために今、必至でおカネを貯めております。
 もし、炭鉱太郎の次の本を出すことができましたら、その日には必ず、県立図書館のカウンター気付けであさ様に一冊、ご献本いたしたいと思います。
 ええ、もちろん、また地味で地味で棚差しからも早々に姿を消しそうなテーマであります(苦笑)
 暇なので、朝から長文です。もうしわけございません。
 嗚呼、なんということでしょうか。ひと様のブログで胸襟を開いてしまったのは初めてであります。
 最近、水槽のキングコングパロット以外に、話しかける友達がいなかったので嬉しくなってしまいました(笑)
                                      七尾和晃拝         
                                 
 
Posted by 七尾和晃 at 2009年06月07日 08:27
あさちゃん・・・せっかくのコメント汚しでゴメン・・・
全部読む・・・七尾氏の作品全部読む!
氏の矜持に感動!・・・言い方が安っぽいのはカンベン・・・。
勿論、買う!・・・キツイ・・・。
Posted by タロー at 2009年06月08日 00:25
こんばんわ、タローさんのブログ記事みて参りました。

こんなことがあるんですね、
これもブログの醍醐味のひとつかもね。

僕も読んでみますわー。
Posted by sakapasakapa at 2009年06月08日 00:34
絶句! 
お二人の会話の意味が良く分かっていない自分が情けないけど(アセ;
むちゃくちゃ、興奮!!
わたくしも読みます☆
Posted by アクエリアスアクエリアス at 2009年06月08日 21:25
タロー様

この盛り上がり、氏のお人柄故でしょう。
ご本は身銭を切る価値はございます。


Sakapa様

醍醐味でもあり恐いところでもあります。
七尾様がお優しい方で本当によかった・・・。


アク様

えへへ~。是非おデートかたがた感想発表会したいですね~。
Posted by あさあさ at 2009年06月12日 18:52
七尾様

重ねがさね丁寧なお返事をありがとうございます。
値千金の作者の本音を頂戴して大変恐縮しております(笑)。

こちらではちょっとした「七尾氏フェスタ」となっておりますが、
ひとえに七尾様のその誠実さと、物を書くことへの真摯な態度をして、祭たらしめているのでしょう。

「炭鉱太郎」確かに拝読いたしました。拙筆の感想は場所を改めるとして、
「銀座の怪人」同様、もしくはそれ以上の読書体験でした。
宮本常一、網野善彦よろしく、漂泊の人々に憧憬ともつかない関心を持つ身としては、
「銀座の怪人」とはまた違った知的興奮がございました。
もっとも読みかじりもいいところなので、七尾様のご見識には遠く及びませんが。

対象が変わっても人間や時代、文化の価値は等しく尊いものです。
テーマが派手でも地味でも、変わらず取材された方への七尾様の誠実な姿勢に、
その確信を深めた思いです。
そういう方だからこそ、出版村は生きづらいのでしょうね。


>ノン-フィクションと称し、どこかに書いてある話を“地の文に織り込む”と称してオリジナリティを装ったものや・・・

地雷を置いていかないで下さいよー!
もう。まっさきに※野※※の「※の※※」を思い出しちゃったじゃないですか!
読了後、「パッチワークはおかんアートだけにしていただきたい!!」
と憤ったのを思い出します。
さらにその後この方が出された同じテーマの本に至っては、
ご自身の前作の文章までパッチワークの布切れになされて・・・。
あ、でも※佐※※の子孫のインタビューは興味深かったです。

分らなかった方へ。
ヒントはこの中にありますし、氏のご本の参考文献の中にも名前があります。
5冊のうちのどれかは秘密。全部読め!!
でも分ってもここに書いちゃだめですよん。
だってたぶん七尾様ならこれでおわかりになりますもの。
伏字の状態でご同意いただいた後に、うっかり名前と題名が出てきたら
七尾様にご迷惑がかかりますから。
こわいなー、ギョーカイって。


ダヴィンチコード的ここだけの話もありがとうございました。
その場で即確認致しました。
さぁ、気になったアナタ!全部読め!!(笑)


「もし」なんてお付けにならずに、是非「炭鉱太郎」につながる次回作を世に出して下さい。
七尾様からのご献本の栄に浴する喜びをお与え下さいましね。
でも身銭も切りたいので、自分で買った方は誰かに上げちゃうかもしれません。
誰かー。七尾本5冊の領収書をと交換しましょー(笑)


>最近、水槽のキングコングパロット以外に、話しかける友達がいなかったので嬉しくなってしまいました(笑)

動いてるものに話しかけるだけで、私より上ですわ。
「三色スミレ」相手にもバンバン話かけましてよ。


楽しい前夜祭(読書時間)は終わりました。
ありがとうございました。
明日の夜はわっしょいわっしょい言ってます。
Posted by あさあさ at 2009年06月12日 19:32
 
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